テボーの定理

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テボーの問題

テボーの定理(テボーのていり、:Thébault's theorem、:Théorème de Thébault)は、フランス数学者ヴィクトル・テボー英語版フランス語版が提唱したいくつかの幾何学の問題の総称である。それぞれは、テボーの問題I, II, IIIとして知られている。

テボーの問題 I[編集]

ある平行四辺形の4辺の外側に正方形を作る。このとき、4つの正方形の中心は正方形を作る。

これはヴァン・オーベルの定理の特別な場合である[1]

テボーの問題Iをもとにしてつくられたタイルのパターン

テボーの問題 II[編集]

ある正方形の隣り合う二辺に正三角形を作る。ただし、双方ともに、外側または内側にあるとする。このとき、2つの正三角形の頂点でない正方形の頂点と、正方形の頂点でない二つの正三角形の頂点が成す三角形は正三角形である[2]

テボーの問題 III[編集]

ある三角形ABCと、BC上の点Mについて、BC,AMと三角形ABC外接円する(内接する)AMの両側にそれぞれ作る。 2つの円の中心P,Qと三角形ABC内心I共線である[3][4]澤山-テボーの定理(Sawayama-Thébault theorem,Sawayama and Thébault's theorem)とも呼ばれている[5]

2003年まで、学会はテボーの問題 IIIの証明はこれらの問題の中で最も難しいと考えていた。テボーの問題 IIIは1938年、American Mathematical Monthly英語版で紹介され、1973年に、オランダの数学者H. Streefkerkによって証明された[6]。しかし東京陸軍中央幼年学校の教官であった陸軍教授[7]澤山勇三郞が1905年に独自に証明を与えていたことが、2003年、Jean-Louis Aymeによって発見された[8][9][10]

テボーの問題 IIIの円を傍接に置き換えたもの、つまり内心を傍心に、2つの円を外接円に外接するように置き換えたものは、2002年、Shay Gueronによって発見され、 ケイシーの定理を用いて証明された [11]。澤山-テボーの定理は以下のようにも言い換えることができる[11][12]

澤山-テボーの定理 ― AMB=θAM,BCと△ABCの外接円に内接するB,C側の円の中心をそれぞれP,Q、内心をIとすると以下の式が成り立つ。

澤山とH. Streefkerkの結果を用いた証明[編集]

補題(澤山の補題)[編集]

テボーの定理の補題、JIと一致することを示している。

・円QBC,AM接点E,Fとする。E,F,Iは共線である[8][13][14]

 円Qと△ABCの外接円Oとの接点をKとする。Kを中心とする円の相似からKEOの交点NBCの中点、つまりAIOの交点である。したがって、KEは∠BKC二等分線である。またKFOの交点をLANEFの交点をJとして、EF//NLなのでReimの定理[註 1]から、A,J,F,K共円である。△AFJF,E,Jに、ミケル点をKとしてミケルの定理英語版を用いることで、AJと円JEKJで接することが分かる。円Q,JEKEK共軸で、AJと円JEKが接することから、Nを中心としJを通る円と円JEK,Q直交する。ところで、∠NKB=∠NCB=∠NBC接弦定理の逆から円BKEBNと接するので、共軸な3円Q,JEK,BEKは、すべてNを中心としJを通る円と直交する。したがってNB=NJ=NCである。トリリウムの定理よりNB=NI=NCなのでI=J。以上よりE,F,Iの共線が示された。

特にM=Bとすると、円QB混線内接円となり、この補題ニクソンの定理(theorem of Nixon)と呼ばれる[15]。Dao Thanh Oaiは等角共役点を用いた一般化を発表している[5]

本題[編集]

P,Q,Iは共線である。

PBC,AM接点G,Hとする。P,Qはそれぞれ∠AMBの内側、外側の二等分線上にあり、またGH,EFはそれぞれの垂線であるので、GH//MQ,EF//MPである。さらにPG//QEなのでパップスの六角形定理英語版の逆より、P,Q,Iの共線が示された。

出典[編集]

  1. ^ Thébault's Problem I”. www.cut-the-knot.org. 2024年5月18日閲覧。
  2. ^ Thébault's Problem II”. www.cut-the-knot.org. 2024年5月18日閲覧。
  3. ^ Alexander Ostermann, Gerhard Wanner (2012). Geometry by Its History. Heidelberg ; New York : Springer. pp. 226-230. https://archive.org/details/geometrybyitshis0000oste 
  4. ^ Thébault's Problem III”. www.cut-the-knot.org. 2024年5月18日閲覧。
  5. ^ a b Dao Thanh Oai,Cao Mai Doai, Quang Trung, Kien Xuong, Thai Binh, Vietnam (2016). “A Generalization of the Sawayama and Th´ebault’s Theorem”. International Journal of Computer Discovered Mathematics (IJCDM) Volume 1: 33-35. https://www.journal-1.eu/2016-3/Dao-Thanh-Oai-Sawayama-Thebault-pp.33-35.pdf. 
  6. ^ Zvonko Cerin (2011). “On Thebault’s Problem 3887”. Journal for Geometry and Graphics Volume 15: 113-127. https://heldermann-verlag.de/jgg/jgg15/j15h2ceri.pdf. 
  7. ^ 『官報』第5444号、明治34年8月24日。
  8. ^ a b Ayme, Jean-Louis (2003), “Sawayama and Thébault's theorem”, Forum Geometricorum 3: 225–229, MR2055379, http://forumgeom.fau.edu/FG2003volume3/FG200325.pdf 
  9. ^ Sawayama, Y. (1905-12-01). A New Geometrical Proposition. JSTOR. The American Mathematical Monthly. http://archive.org/details/jstor-2967716 
  10. ^ 国立国会図書館デジタルコレクション”. dl.ndl.go.jp. 2024年5月20日閲覧。
  11. ^ a b Gueron, Shay (April 2002). “Two Applications of the Generalized Ptolemy Theorem”. The American Mathematical Monthly 109 (4): 362–370. doi:10.2307/2695499. JSTOR 2695499. http://geometry.ru/articles/Two_Casey.pdf. 
  12. ^ Wilfred Reyes. “AnApplication of Th´ ebault’s Theorem”. Forum Geometricorum. 2024年5月23日閲覧。
  13. ^ Y. Sawayama's Lemma”. www.cut-the-knot.org. 2024年5月20日閲覧。
  14. ^ Paris Pamfilos. “Pairings of Circles and Sawayama’s Theorem”. Forum Geometricorum. 2024年5月20日閲覧。
  15. ^ Nguyen Chuong Chi (2018). “A Proof of Dao’s Generalization of the Sawayama Lemma”. International Journal of Computer Discovered Mathematics (IJCDM) Volume 3: 1-4. https://journal-1.eu/2018/Nguyen%20Chuong%20Chi%20-%20Dao's%20generalization.pdf. 
  1. ^ Reim's theorem:2点A,Bを通る2つの円の片方に点E,Fがあるとする。AE,BFともう一方の円の交点をそれぞれG,HとするとEF,GHは平行である。これをReim's theoremという[1]内接四角形の角とその対角の外角が等しいことから導かれる。

外部リンク[編集]